ピンセットこれくしょん

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【ピンこれ】Dumont 5SP Inox08 臨床・昆虫用のコシをやわらかくした特注品のピンセット 最新ロットは神ロット!

【ピンセットこれくしょん】手持ちのピンセットを一本ずつ紹介していくシリーズ

第5回は 臨床・昆虫用のコシをやわらかくした特注のピンセットです。

 

Dumont社製 5番型SP(特注) Inox08素材(型番 TW-505) テンション計測値45g

  ※テンション値は計測の仕方や個体によって差があります。参考程度のものです。

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  このピンセットは顕微鏡下作業で大活躍する非常に鋭利な先端を持つ5番型です。通常の仕様よりもコシ(テンション)をやわらかくするように注文をつけた人がいて、代理店を通じてDumontが特注品として作っているようです。ピンセットのコシのかたさを示す目安としてテンション値というものがあります.先端を閉じるのに必要な力の強さを便宜的にg単位の数値で表したものがそれです。テンション値が高い=コシがかたいピンセットです。Dumontの5番型のピンセットのテンション値はおおむね100-150gほどで、ロットや個体による差は少なからずあります。どれくらいのコシのかたさが良いという絶対的なものはなくて、個人の好みに依ります。私の場合は150gの個体に当たってしまうと、顕微鏡下で行うような作業には使えないくらいかたいと感じます。

 この特注5番の素材はInox08が使われています。“Inox”は“acero inoxidable”の略で、日本でいう「ステンレス鋼」のことです。Dumont社のInoxには2種類あって、両方とも磁性のある少し硬めの素材です。マルテンサイト系のステンレス鋼のように思いますが、合金の詳細は公開されていないようです。Inox02はオートクレーブ(高圧蒸気滅菌)不可で、Inox08はオートクレーブ対応のメディカルステンレスとされています(ここ参照)。Carbon steel(炭素鋼)ほどは硬くないので、解剖用途として頻繁に研ぎながらつかうとすぐに短くなります。一度好みの先端を作ったあとは、#10000くらいのラッピングフィルムでほんの少しずつ研ぎあわせながら使うとより良いと思います。

 

 特注品といっても、取り扱いのある代理店からはほかのピンセットと同じように購入することができます。私も学生の頃に初めて買い求めてから、このピンセットを愛用しつづけています。

 

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 写真上は2002年(M1の学生のころ)に買ったもので、テンション値は40gとすごく軽く、今でも解剖作業や1mmくらいのカメムシの標本を作るのに大活躍しています。写真中は2014年購入で、テンション値は90gほどもあって、ちょっと硬いなあ(とはいえ普通の5番よりはやわらかい)と思いました。写真下の2016年の最新ロットは、テンション値は45gと14年前のものとほぼ同等で、さらに先端の仕上げも非常によいものでした。

 ピンセットはロットや個体によって品質が一定でなく、とくにコシのかたさはずいぶんと大きな差があります。職人の手仕事で作られているし、年代によって仕様や素材の変更もあるので、ある程度は許容しなければなりません。

 まだ手にとった本数が少ないので個体差もあるかもしれませんが、この最新のTW-505は品質の高い“神ロット”の予感がします。先端の仕上げも、新品のまま使い出せるほどにぴったりとかみあっています。ちなみに、Dumontの他の素材の5番型では、現在国内に在庫のあるカーボンスチール(炭素鋼)のものもおおむね80gくらいのテンション値の超当たりロットと思います。

 

この特注品のピンセットは下記の代理店で取り扱いがあるようです。意外(?)に安くて、ほかの5番と変わらない程度のお値段です。

インダストリアル・インポーツ株式会社 < 私はこちらから購入

THE KAYAKUYA

【ピンこれ】KFI K-3GG SUS304 みんなが愛する費用対効果抜群のピンセット

【ピンセットこれくしょん】手持ちのピンセットを一本ずつ紹介していくシリーズ

第4回は初心者から上級者までみんなが愛する費用対効果抜群のピンセットです。

 

幸和ピンセット工業社(KFI)製K-3型SUS304素材 テンション計測値125g

 ※テンション値は計測の仕方や個体によって差があります。参考程度のものです。

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 幸和ピンセット工業社は、葛飾に町工場を構える国産ピンセットの最大手メーカーです。ピンセットの金型を自社で作る技術を持っていて、この会社の作るピンセットの用途・形状は実に多様です。

 なかでもこのK-3GGは昆虫学分野では業界標準のピンセットではないかと思ってしまうほどに普及し愛用されています。その理由は、昆虫の標本作りから飼育作業にいたるまで、細かい作業にほどよく適した形状と、お求めやすい価格(1000円で十分におつりが来る)が魅力だからです。生物系の学生さんなら実習で使ったり、研究室に何気なく転がっているピンセットがこれだということも少なくないでしょう。

 

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 このメーカーのピンセットは定番の型番のものでも常に改良を続けていて、最新のロットのものは明らかに品質が上がっています。

 すでにこのK-3GGをお持ちの方は、ピンセットの刻印とバネ板の形状を確認してみてください。私の手元にある15年くらい前の古いロットのもの(写真上)と2016年に購入した最新のロット(写真下)を見比べてみます。古いロットのものでは刻印に記載されている素材が“18-8 STAINLESS”となっています。最新のロットではこれがSUS304になりました。18-8ステンレスとSUS304は全く同じステンレス鋼の素材のことを指しています。素材が変わったわけではありませんが、刻印のよってロットの新旧が分かる指標となります。

 注目すべきはバネ板の方で、古いロットのものでは板厚の変化によって形成される凹凸がピンセットの外側にあるのに対し、最新のロットではこれが内側になっています。つまり、バネ板の裏表が逆になっているのですが、このおかげで最新のロットのものは外側のでこぼこ感がなくなって違和感のないさわり心地になりました。また、このメーカーのこだわりの一つでもあるバネの効き具合も改良されているようで、筆舌に尽くしがたい絶妙さが最新のロットにはあります。

 

 K-3GGはたしかに使いやすいピンセットですが、先端の仕上げは少し粗く、新品のままの状態ではごく精密な作業には向きません。大型の昆虫の標本作りには十分に使えますが、体長5mmにみたないような微小な昆虫の標本整形には厳しくなります。

 

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 写真上はこのピンセットの先端部を写したもので、上が新品の状態で、下が砥石や紙やすりで研いで調整したものです。ピンセットを研ぐことは意外と簡単で、ちょっとしたことで格段に使いやすくなります。

 ピンセットの研ぎ方については、また後日にでも詳しく懇切丁寧にしつこく無理矢理お伝えする記事を書きたいと思います。

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